塾講師、数学マンは踊る

数学塾講師バイトによる数学の教え方。高校受験のための中学数学が専門。

「分からない」の分類

<分からないの分類>

「分からない」は大別すると二種類です。

①知らない(知識、公式、技術を知らなかったから分からない)

②気付けない(どの知識を使うか気付けなかったから分からない)

以下の問題を例に説明します。

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これをある生徒に解かせてみたら、∠ADBをとりあえず求められていました。が、それ以上進みません。その原因は何でしょうか。「錯角や二等辺三角形の知識が不足していた」という分析をした方がいるかもしれませんが、それは誤りです。錯角の問題だと分かってれば錯角を求めることぐらい出来ます。二等辺三角形の問題だと分かってれば底角を求めることぐらい出来ます。別に、知識は不足していないんです。では何が原因か?

正しい分析は、「錯角や二等辺三角形の問題だと気付けなかった」です。「錯角が等しい」という知りきっている知識を使う問題だということに気付かなかっただけです。だから、「これは平行線があるでしょ?だから錯角を使うんだよ?」と解説するだけで、その問題に関しては理解できました。この生徒は方針が分からず手が出せなかっただけなのです。

知識自体は身に付いてるが、その知識を使う問題だということに気付けない。これが、②の「気付けない」です。

 

では、次の問題。

問 直径が6cmの球の体積を求めよ。

これが分からない原因の分析は言うまでもなく「球の公式を忘れていた」です。つまり①の「知らない」に分類されます。さすがに、球の問題だって気付けなかった(「分からない」の原因が②である)という可能性は低いです。

 

次の問題。

問 (x+1)(x+2)+(x-3)(x+4)+4 これを因数分解せよ。

これも、②(気付けない)が原因だと考えられます。9割くらいの生徒はとりあえず展開して整理することはできます。が、それを共通因数を括って、さらに因数分解をする、というところまで辿りつける生徒となると、5割くらいまで落ちます。

別に、共通因数を括る因数分解自体が出来ないわけではないはず。そもそも共通因数を括る因数分解の問題だと気付けなかったことが、この問題が分からなかった原因です。

 

<①、②の対策は異なる>

①(知らない)が原因だった場合の対策は簡単で、その知識を覚えさせれば良いです。公式をノートに書かせる、宿題で類題を出す、次の授業で確認をする、など何でもいいですが「知識を定着させる」が①の対策です。

 

ただ、②(気付けない)が原因だった場合は要注意です。例えば上の図形の角の問題で、

「これは、錯角を使うんだよ。錯角は等しいよね。で、次に二等辺三角形があるから、底角は等しいことを使えば……お、分かった?じゃあオーケーだね」と済ましてその後何もしないのはいけません。オーケーではありません。教師の補助があってこの問題に限り気付けたとしても、次に似た問題が出たときに気付けない可能性が高いからです。原因は「気付かなかったこと」なのですから、次は気付けるようになる解説が必要です。

この問題の正しい解説は、「平行線→錯角、同位角 辺が等しい→二等辺三角形 に気付こう」と使い分けを意識させ整理させることです。この解説なら、次に似た問題が来ても、「あ、平行線があるから錯角か同位角かな?」と気付くことができます。よって②の対策は「使い分けを意識させる」です。

 

次に、上の因数分解の問題。これに対する解説は以下のようにするのが正しいです。

point1 「因数分解しろ」と書いてあれば( )( )の形にする

     「展開しろ」と書いてあれば()を外したりして、普通に計算する

 (必要なら以下の図のようなもので説明します。「もし展開しろという問題だったら右のように書けば正解だったよ」という風に)

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point2 ( )( )の他に余り者がある場合、展開して整理してから因数分解する

(例も以下のように書かせましょう)

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point3 x^2に係数がある場合は、

     ①共通因数で括る ②2乗ー2乗の形 ③( )^2の形

     を警戒する

例① 3x^2-24x+45 = 3(x^2-8x+15) = 3(x-3)(x-5)

例② 9x^2-4y^2 = (3x+2y)(3x-2y)

例③ 4a^2-12ab+9b^2 = (2a-3b)^2

 

上のように「何々のときは、こうする」「何々の場合は何々を使う」という文言を使うと良いです。使い分けを意識させれば、次の似た問題でも戦えるようになるでしょう。

このように、①と②の解決方法は異なるため、どちらで躓いているのかは正しく診断する必要があり、また、その解決方法も正しく選択することが求められます。単純に知識を知らない(①)から解けないだけなのに、色々なパターンを見せられても大量の情報量に混乱するだけです。また、知識をちゃんと知ってて、それを使うことに気付けなかった(②)だけなのに、その知識について延々解説されても無意味です。

 

<教師は整理しておく必要がある>

②(気付けない)が原因のときには、使い分けを意識させた解説が必要であることは述べました。この、使い分けを意識させて解説する場合は、その問題以外の知識も問われてきます。例えば上の因数分解の問題では、

「展開しろ」と書いてあれば()を外したりして、普通に計算する

②2乗ー2乗の形 ③( )^2の形を警戒する

といった知識は、この問題が理解できることだけを考えたら、不必要で、関係ない知識です。ただ、こういう知識を教えなければ、次に似た問題をやったときに結局「何をすればいいか分からない(気付けない)」状態になります。

教師側としては、その問題と似たパターンを列挙しておき、それを分類して、生徒が分かる形で整理する必要があるのです。生徒がどの問題と混同しやすいのかを考えておかなくてはなりません。ここは、教師の教務力が問われるところなので頑張りましょう。

 

最後に塾講師をやってきて経験的に思いますが、数学においては①(知らない)よりも②(気付けない)の方が原因で躓いてる生徒が多いです。なのに、いくつかの教師は原因が①②のどちらであっても「知識を定着させる(①の解決策)」により一律に解決しようとしてしまいます。

原因としては、その方が楽だからです。知識を定着させるには生徒にそれを書かせるだけでいいです。また、多くのテキストが「知識を定着させる」ことに重点を置いてしまっていることも問題です。教科書や参考書を見ても、この「使い分け」を意識して説明している文章はほとんど見られません。ほとんどが単に知識の解説となっているだけです。教師としても、それを生徒のノートに写させるだけでいいので楽です。

知識一つ一つがしっかり定着してても、それが総合的に結び付けられていて整理されていなければ、とても複合問題などに対応できません。教師は、その整理を手伝うことが大切です。

 

まとめ

分からない→①知らない ②気付けない 

①の解決策→知識を定着させる

②の解決策→使い分けを意識させる

①、②の解決策は異なるため、「分からない」の理由を正しく診断し、それに対する解決策を選択することが大切