塾講師、数学マンは踊る

数学塾講師バイトによる数学の教え方。高校受験のための中学数学が専門。

「定跡=頻出の発想」と「発想=考えなければいけないこと」の区別

数学では、「こういう問題ではこうすることが多い」という定跡が存在します。

例えば、三角形に内接する円があった場合は「円の中心と接点を結ぶ半径部分に補助線を引く」というのが定跡です。

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また、円柱の表面積を求める問題だったら、「表面積は展開図を書く」ことや「展開図における円の円周と長方形の横の長さは等しい」ことは定跡になります。

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これらの定跡はその問題問題にぶつかったときに考えて導きだす(発想する)ものではなく、むしろ覚える対象です。定跡は言わば「頻出の発想」と呼べるものですが、俗にいう発想とは区別すべきです。次に、今年の埼玉県立高校入試の問題を例にとって説明します。

http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/15/stm/stm-su/su_3.html

 

問2(1)の長方形と円の問題。この問題を生徒に解説する場合に、どうしますか?

「まず、扇型を作りたいから補助線引こう。で、三平方の定理でここが求まって、ひと通り求められるところは求まったね。で、問題はここの中心角だよね。そこで実はこことここは合同だから中心角は90度になるんだよね。あとは面積を足していけばOK!」

のように強弱付けずに解説すると、たぶん生徒にとっては分からないと思います。あるいは分かったつもりになっただけであり、次に似た問題と戦っても解けるようにはならないです。

なぜ分からないのかと言えば、生徒にとって考えなければいけないこと(=発想部分)が多すぎたためです。

  • 扇型を作りたいから補助線を引く
  • 三平方の定理を使って辺の長さを求める
  • 中心角を求めるために合同を利用する

これらすべてが実際に問題を解いてる最中に「考えなければならないこと」だとすれば、生徒にとって大きな負担なはず。こんな多くの要因を考えなければならないと知ったらパンクし、「分からない」と嘆きたくなります。

 

この問題では、前者2つは「定跡」に該当するものです。どちらかと言うと覚えておくべきことであり、スムーズにできているべき性質のものです。スムーズにできてないのなら、復習が欲しいところです。

 

この問題で本当に考えなければいけないことというのは最後の

  • 中心角を求めるために合同を利用する

だけです。俗にいう発想部分であり、無理に「出来る」必要はなく、「理解できれば」問題ありません。生徒としても、最小限のこの部分だけ発想できれば良いと知れれば、この問題に取り組もうと思えるはず。

 

一般に先生の説明というのは、生徒から見たら全部「発想」に属したものに見えます。それでは前述のとおりパンクして分からなくなるだけです。発想というのは、ある程度のところまでは分かってて、あと一歩のところをなんとかしようとして生み出されるものです。ある程度のところまでは考えさせてはいけません。発想部分は最小限でなければなりません。生徒が「考える」ようになるためには、「考えるべきところ」を最小にしてあげなければいけないのです。

 

定跡というのは教科書や問題集に説明が書かれていません。「問題演習を通じて自然と身に付けるべき」という風潮が強いからです。出来の良い子ならそれでいいのかもしれません。おそらく、先生という職業に就いている方々はそうして自然と身につけてきた側の人が多いのだと思います。しかし、そうではない、大部分の人にとって、問題演習を通して自然に身につけるというのは結構高度ではないでしょうか。

 

発想と定跡は区別して教える必要があります。

例えば、「πのある方程式はπで割る」というのは発想でなく定跡です。先生も「あ、左辺右辺がπとの積の形になっているから、両辺をπで割ることが可能だ!」ってその種の問題を解くときにいちいち発想して気付いてるわけではないはず。「円関連の方程式は大抵最初にπで割っておくと楽である」ことを定跡として知っているから、πで割ろうと思えるのです。これができない原因は計算能力の欠如でなく定跡を知らなかったことです。

円柱の表面積を求めるときに展開図を書くのもただの定跡です。「むむ、表面積って底面積と側面積の和であって面積は平面図形的記述が可能だから、もしかして展開図を書けば上手くいくんじゃないか!?」なんていちいち発想しないでしょう。「表面積の問題は展開図を書く」のが定跡だから展開図を書いているわけです。

 

その定跡が出来てないのは生徒の考えが足りないからでなく、単に教わってないだけです。定跡は一度教えただけでは絶対にダメです。ポイントとして強調し、メモを取らせ、それを使わせる演習問題を何回か解かせてスムーズにさせる必要があります。このように先生が多くの定跡を教えることが重要だと思います。

 

・まとめ

定跡…「頻出の発想」と言い換えても良いが、発想とは区別したい。一度の解説で軽く教えるだけでは不十分。強調して教えるためにも、生徒にメモを取らせて何回か演習させたい。つまり、これは「出来る」レベルにしたい。

発想…その問題に限り必要な、考えなければいけない部分。解説して「理解できる」ならそれでいい。生徒目線でここに属する要因が最小になるように、定跡部分を増やしていくのが大事。

→定跡は軽視されがちだが、先生が教えるべき部分である。

 

 

 

 

 

結構良いこと言った気がする。